貧血の症状について
貧血は血液中の赤血球が徐々に減っていき、全身に運ばれる酸素の量が少なくなっておこります。その症状もさまざまで、日頃の疲れに似たものが多く、貧血と気付かない場合も多くあります。
特に生理で血液を失う女性は貧血になりやすく、統計によると日本の成人女性の約20~25%が貧血を発症しているといわれています。
さらに、その予備軍を含めると約半数が隠れ貧血にあると考えられます。その数は近年、無理なダイエットなどの影響もあって増加しています。
貧血に共通する症状
貧血に共通する一般的な症状は次の通りです。
- めまいや立ちくらみ、なんだか眠い、倒れる・失神、頭痛、耳鳴り
- ムカデが這うようにモゾモゾする感覚
- 体がだるい、疲れやすい
- 冷え・寒気、肩こり
- 胃痛、吐き気、下痢、食欲不振
- 動悸や息切れ
- 顔色が悪い、口の中・結膜・唇・爪が白っぽい
脳に酸素が行き渡らなくなり、その働きが低下したり、ぼっーとしたりするために現れる症状です。
脳の神経が異常に興奮して、皮膚の表面に誤った信号が送られて起こります。
筋肉に酸素が十分に供給されないために起こります。筋肉は酸素が少ないと十分にエネルギーを得て収縮することができません。そのため疲労、倦怠感などの症状が出ます。
筋肉が酸素不足で収縮できないと、血液を血管の末端にまで行き渡らせることができません。そうすると、冷えや寒気などの症状を引き起こします。さらに肩の筋肉がこわばると肩こりなどの症状が出ます。
胃腸へ届けられる酸素が不足すると消化が鈍り、ぜん動運動(運搬する力)も弱ります。すると胃の中がもたれて、吐き気や食欲不振につながります。また、腸に溜まった消化物が腐敗して下痢を引き起こします。
さらに酸素の消費を抑えようと副交感神経が活発になるため、胃酸が過剰に分泌され、胃痛や吐き気に繋がります。
酸素が不足すると、血流を早めてできるだけ早く酸素を巡らせようとします。そのため、階段を上ったりする急な運動をしたときに心拍数が増えて動悸が起こりやすくなります。また呼吸を増やして酸素を取り入れようとするため、息切れしやすくなります。
ヘモグロビン(赤い色素)が不足すると肌の赤みが失せていき、顔色が悪くなり唇などは青みを帯びます。また、アカンベー(下まぶたを引き下げる)をすると白く見えます。
貧血と症状が似ている脳貧血や低血圧
脳貧血や低血圧による立ちくらみは脳での血流の悪さが影響して起こります。そのため血液そのものに問題がある貧血とは似ていて非なるものです。
- 脳貧血
- 低血圧
脳貧血は起立性貧血とも呼ばれ、急に立ち上がったときクラクラしたり、目の中で火花が飛ぶようにチカチカするといった症状が出ます。長い時間立っていると突然目の前が真っ白になり倒れてしまうこともあります。
その症状は一時的なもので、ストレスなどの影響で血圧を一定に保つ自律神経がうまく働かないために、脳に届く血液量が不足して起こります。
低血圧は体中に血液を送るポンプ機能が弱いために起こります。そのため心臓から脳に血液が行き渡らなくなり、立ちくらみなどの症状が現れます。
男性の貧血症状は大きな病気の可能性がある
男性は生理で鉄分を失うことはありません。また男性ホルモンの影響で血液が活発に造られているため、貧血の症状が出た場合、体内のどこかで出血していると考えられます。
具体的には、次のような消化器系疾患が疑われます。
- 胃・十二指腸潰瘍や胃がん
- 大腸がん・大腸ポリープ・痔
血液が胃酸などと反応して黒くなり、タールのような便が出ます。
血液がそのまま便に混ざるため、褐色や赤みのある便が出ます。
日頃から便を観察し、色の変化に気づくようにしておきましょう。またおかしいと思ったら大至急、便潜血検査を受けましょう。
貧血の種類とその特徴的な症状
貧血は全身の酸素が不足しておこりますが、鉄欠乏性貧血、出血性貧血、巨赤芽球性貧血などさまざまなタイプがあります。
鉄欠乏性貧血とその症状
鉄欠乏性貧血は全貧血患者の7~8割を占めるほど多くみられる貧血です。通常、食べ物から摂取した鉄分は十二指腸で吸収され、骨髄に運ばれてヘモグロビン生成の材料になります。
しかし鉄分が不足するとヘモグロビンが作られなくなり、赤血球の数が減り、その形も小さく(小球性低色素)なります。そして、体中に酸素を運ぶことができなくなり、鉄欠乏性貧血の症状が現れます。
鉄分が不足する理由とは?
- 偏食や不規則な食事
- 過度な運動
インスタント食品やお菓子ばかりを食べていては栄養のバランスが崩れてしまいます。とくに若い女性は無理なダイエットにより鉄分が不足しがちです。
スポーツ選手は大量の血液が必要とされるため鉄分が不足しがちです。体重がかかる足裏でも赤血球が破壊されることが多く、大量の汗をかくことで鉄分も失われやすいです。
貯蔵鉄が底をつくと貧血の症状が現れる
体内の鉄分の総量は約4gで大きく変動することはありません。この内の約3gがヘモグロビンに、残りは肝臓や全身の組織に貯蔵鉄として蓄えられます。不足すれば貯蔵鉄で補い、食事で足りれば蓄えるというようにバランスをとっています。
そのため血液の中の鉄分が不足しても、すぐには貧血の症状は現れません。これを「隠れ貧血」と呼び、この症状を含めると30代女性の60%が鉄欠乏性貧血といわれています。
また貯蔵鉄の内もっとも多い肝臓の鉄分が底をついてしまうと、めまいやだるさ、頭痛や息切れなど、酸素不足によるごく一般的な貧血の症状が現れます。
残った骨髄や皮膚、粘膜などの貯蔵鉄も使い果たしてしまうと、次のような鉄欠乏性貧血に特有の症状が現れるようになります。
鉄欠乏性貧血に特有の症状
- 氷のような硬いものを食べたくなる
- 爪がスプーン状に反り返ったり、もろくなったりする
- 肌がくすんだり、カサカサする
- 舌の表面がピリピリして、酸味がしみる
- 髪の毛がパサパサになったり、抜け毛や枝毛が多くなる
- 口内炎や口角炎(口の端が切れる)
- 食べ物が飲み込みづらい
鉄分が不足すると中枢神経がおかしくなると推測され、氷やせんべいなど硬いものをやたらとかじりたくなります。
ただ鉄剤を飲めばこの症状は数日でなくなります。しかし貧血自体が治ったことにはなりません。
健康な爪はきれいなピンク色をしていますが、鉄が不足すると血液の色素が少なくなるため白っぽくなります。
さらに症状が進むと爪がスプーンのように反り返ったり(スプーン爪)、爪自体が脆くなって割れたり剥がれたり、表面がデコボコになったりします。
体に十分な酸素が行きわたらなくなると、細胞の新陳代謝が衰え、肌荒れなど皮膚トラブルが起きやすくなります。
また鉄は皮膚のコラーゲンの生成にも関与しているため、鉄が不足するとお肌がカサついたりくすんだりします。
鉄が不足すると舌の表面にある味を感じる突起状のブツブツがなくなり、酸味がしみるなどの味覚障害が現れます。
頭皮や毛根に酸素が十分に行き届くなくなり、髪の生育サイクルが阻害されて抜け毛や薄毛を招きます。またコラーゲンも不足するので、髪のパサつきや枝毛なども生じやすいです。
鉄が不足すると口の中の粘膜が弱くなり、免疫力が低下して口内炎や口角炎になりやすくなります。また容易にカンジダ菌が侵入し、口腔カンジダ症にかかりやすくなります。
症状が進行すると食道やのどの粘膜も弱くなって、固形物が通りづらくなる嚥下障害も起きます。
出血性貧血とその症状
出血性貧血は、出血により鉄分が失なわれて起こります。このタイプの貧血には急性の出血と継続的な出血によるものの2つがあります。
1、急性の出血による貧血
赤血球がケガや手術などで大量に失われて起こります。ただ事故や術後すぐにはその症状に気づかないことがあります。
その場合2~3日後に突然血圧や体温が低下したり、心拍数が上昇するといった症状がでることで、初めて貧血だと分かります。緊急に、輸血や血液製剤で、循環血液量を補う処置が必要です。
2、継続的な出血による貧血
少量の出血が続くことにより、体から徐々に鉄分が失われて起こります。出血の原因もさまざまですが、A)消化器の疾患、B)女性ホルモンの影響、C)婦人科疾患などに分けられます。
A、消化器の疾患による出血
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 痔
ピロリ菌感染や非ステロイド性抗炎症薬の服用、ストレスによる胃酸過多などにより、胃や十二指腸の粘膜がただれて起こる潰瘍です。患部がはがれる落ちる度に出血を繰り返すため、慢性的な貧血に陥ります。
貧血の症状では息切れや動悸、倦怠感といった一般的なもののほか、黒い便や吐血など消化器出血特有の症状が見られます。また、潰瘍の部位によって次のように、痛む部位やタイミングが異なるのが特徴です。
・胃潰瘍
食事中や食後、みぞおちの奥に鈍い痛みがでる。背中の左側が痛くなる場合もある。
・十二指腸潰瘍
空腹時にみぞおちに強い痛みがでて、食事をすると改善する。腰が痛くなる場合もある(左右差はない)。
便秘や下痢を繰り返したり、長時間座ったままでいることで肛門に負担がかかっておこる疾患です。自覚症状がないケースを含めると、成人の半数が痔だと言われています。
痔は放置されがちですが、出血が続く場合は貧血を引き起こす場合があります。痔には次のような種類があります。
・切れ痔
肛門の外側が裂けて出血します。1~2週間で治りますが、長く続くと貧血の原因となります。
・いぼ痔
排便時に強くいきむと肛門の中にうっ血性の内痔核(いぼ)ができます。痛みが弱い割に出血量は多いため、貧血に繋がります。
・痔ろう
痔の炎症が慢性化して化膿すると内痔核ができ、膿を排出するときに出血を伴うほか、その傷口から再出血しやすくなります。
B、女性ホルモンの影響による出血
- 月経生理
- 必要な鉄分量の増加
月経は月に1度、1週間ほど継続するため、日々の鉄分の摂取が不足していたり、月経過多(80ml以上)の人は貧血になる可能性が高くなります。ただ健康な女性は、月経期間の出血量は25~60ml程度であるため問題はありません。
妊娠期や授乳中は、母体の鉄分は赤ちゃんの成長を最優先にして使われるため、鉄分の供給が追いつかず貧血を起こしやすくなります。日頃の食生活や鉄剤の服用など適切な対処をして、重症化させないことが大切です。それぞれの時期については次の通りです。
妊娠期
妊娠中期を過ぎると、赤ちゃんに必要な酸素・栄養を届けるために、血液量が約1.5倍に増加します。このとき血液中の血しょう(液体成分)が先に増加して、一時的に血液が薄まることで、胎盤の隅々まで行き渡らせることができます。
しかし血液の濃度を正常に戻すには妊娠前の3倍もの鉄分が必要になり、不足すると貧血の症状を引き起こします。
妊娠中に貧血が重症化すると抵抗力が落ちて産褥熱にかかったり、赤ちゃんの成長に影響すると未熟児や虚弱児になることもあります。
授乳期
母乳は血液を消費して作られるため、授乳期は鉄分が不足して貧血を起こしやすくなります。血液量が減少すると、母乳の出方に影響を与えることがあります。
C、婦人科疾患による出血
- 子宮筋腫
- 子宮内膜症
子宮を覆っている平滑筋の中にできる良性の腫瘍で、30~40代女性の3割もの人が持っていると言われています。この腫瘍自体が命を脅かすことはなく、自覚症状がなければ気づかないまま一生を終える場合もあります。
しかし筋腫が大きくなると子宮の表面積が広くなるため、月経出血量が増加したり期間が長くなり、出血性の貧血を引き起こします。
貧血によるめまいやたちくらみの症状のほか、月経困難症(強い生理痛)や下腹部痛もみられます。
また筋腫が臓器を圧迫することで頻尿になったり、排尿・排便痛、腰痛の症状がでる場合もあります。さらに筋腫による卵管の圧迫や子宮内の変形が着床を妨げるため、不妊症の原因にもなります。
・粘膜下筋腫
子宮筋腫の一種で、腫瘍が子宮の中に向かって膨らむのが特徴です。筋腫に引っ張られた内膜が壊死や感染をおこしたり、腫瘍が子宮の中を圧迫することで出血が続き、貧血になります。
本来子宮にしか存在しない子宮内膜が別の臓器(卵管、骨盤腹膜、直腸表面など)で増殖する疾患が、子宮内膜症です。20~30代の女性にみられますが最近は低年齢化が進んでいます。
子宮以外で増殖した内膜は月経周期がくると剥がれて出血し、血液が排出できない部位では炎症を引き起こすため出血量が増加します。月経量は通常通りに見えるため、出血の自覚がないまま貧血の症状が先に出てくるケースもあります。
激しい生理痛や下腹部痛が主な症状ですが、腰痛や性交痛、排便痛も見られます。子宮内膜症による貧血の症状は、横になっていても吐き気が治まらないほど強く出るのが特徴です。
巨赤芽球性貧血(悪性貧血)とその症状
巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12や葉酸が不足して起こります。ビタミンB12が欠乏すると、赤血球の母細胞である赤芽球が正しく分裂できず、巨大化したり壊れたりします。
そのためビタミンB12は元来、食事内容や体調の変化で枯渇しないように肝臓で貯蔵されています。しかし、次のような原因で不足することがあります。
ビタミンB12が不足する原因
- 摂取不足
- 吸収不全
ビタミンB12は魚介類、レバーなどに多く含まれます。そのためベジタリアンの人にビタミンB12の不足が目立ちます。
ビタミンB12は胃切除の後や粘膜が萎縮している人、高齢者や吸収を阻害する薬を服用していると上手く吸収されません。
また胃切除後や服薬ですぐに貧血になるわけではなく、3~4年を経過してはじめて症状が現れます。
この症状を改善するには筋肉注射をしてビタミンB12を補います。
葉酸が不足する原因
- 摂取不足
- 吸収不全
偏った食事や妊娠・アルコールの飲み過ぎ・発熱・ガンなどが原因で葉酸が不足します。
葉酸は腸に疾患があるとその吸収が上手くいきません。また薬による吸収阻害も起こります。
妊娠初期に葉酸が不足すると胎児の細胞分裂が正常に行われず、神経管閉鎖障害や先天性疾患のリスクが上昇するといわれています。
葉酸を吸収しやすくするにはビタミンB12が必要です。葉酸不足から貧血が起きた場合は欠乏の原因を取り除き、1ヶ月程度葉酸を服用します。
巨赤芽球性貧血に特有の症状
ビタミンB12や葉酸が不足すると疲れやすさや息切れ、立ちくらみといった一般的な貧血症状の他、次のような巨赤芽球性貧血に特有の症状が出現することがあります。
- 舌の変化
- 胃の不快感
- 若白髪や白髪の増加
- 脊髄障害
- 意識障害
舌は食べ物の刺激によって傷つきやすいため、細胞の入れ替えが頻繁に行われます。細胞が正常に分裂できないと舌乳頭(味を感じる突起)が作られず舌がツルツルになり、刺激を受けて赤くなったり痛みが出ることがあります(ハンター舌炎)。
常に刺激にさらされている胃粘膜も細胞分裂が活溌に行われており、異常をきたすと食欲が低下したり、胃酸が出なくなる(胃無酸症)、胃痛などの症状が出やすくなります。
貧血状態では、ビタミンB12や葉酸は優先的に生命維持のために使われるため、優先度が低い髪の生成は栄養不足に陥りやすいうえ、赤血球が減少するとメラニン色素の原料であるチロシンが不足するので、年齢を問わず白髪が出やすくなります。
ビタミンB12は脊髄での神経細胞同士の連絡に欠かせないため、不足すると痺れや麻痺、歩行困難、体の位置感覚をうしなうなど、知覚に影響がでるようになります。
葉酸が不足すると脳の萎縮やアルツハイマー病のリスクに繋がるホモシステインの濃度が高くなり、意識の混濁や認知症を発症する場合があります。